東京地方裁判所 昭和41年(ワ)12693号 判決
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〔判決理由〕二、そこで被告の自賠法三条の責任の有無について判断する。
(一) 本件加害車の所有権が訴外東都(編注=自動車販売会社)に属しており、加害車の運転者訴外秋田が訴外東都の従業員で、加害車を訴外東都の業務として客から下取りしたものであることは当事者間に争いがない。
(二) ところで<証拠>によれば、被告と訴外東都とは別個の法人であつて、訴外東都は被告からその製造する自動車を継続的に購入し、それを小売店あるいは一般需要者に販売するいわゆるメインデイーラーであるが、わが国有数の自動車メーカーであること公知の事実である被告から見れば、訴外東都は企業的にはその支配下に属するいわゆる系列会社であると認められる。
原告の種々主張する徴表事実の一々は、例えば、中古車販売会社の設立とか販売店会議の開催などのように、当事者間に争いがあつて確定すべき証拠を欠くものもあるが、総体として、被告が訴外東都に対し圧倒的優位な経済的立場に立ち経営上強力な発言権を有すること自体は弁論の全趣旨からも明らかに看取しうるところであつて、たとえ原告の自陳するように被告から訴外東都への株式出資がなく、いわゆる資本による支配の可能性はなくとも、丙第一号証のような内容の契約当事者間においてかかる支配関係の存することを認める妨げとなるものではない。広義には訴外東都その他のメインデイーラーが、メーカーである被告を頂点とする企業組織体の中で販売部門を担当するよう編成されて総合的に利益追求に従事している、ということも許されるであろう。
(三) しかしながら、右のような支配・依存ないし組織結合にも、具体的関係に応じて種々の程度があり、おのずから限界あるものであることも当然であつて、本件の場合、訴外東都は、企業の基本的方向に関して前記の契約条項に縛られているとはいうものの、経営の細部、利益追求の具体的方法に関しては法律上独自の判断に基づいて終局的決定をなしえたもので、従つて、当面の問題である本件加害車についても、訴外東都としては、下取り後これを自己の計算において使用し、所有者として処分する権利を有していたものであることが弁論の全趣旨によつて認められる。換言すれば、被告は、本件加害車を処分する権限はもとより、直接これを使用する権限も、ないしその運転者である訴外秋田に対する指揮命令の具体的権限も有せず、またその運行内容を事前事後に知る機会も与えられてはおらず、要するに本件加害者に対する運行の支配は全然有していなかつた、と認めざるを得ない。
(四) そこで、残る問題は、前記のような訴外東都と被告との間の経済的支配・依存関係から、被告が本件加害車に対して運行の利益を有し、ひいて運行供用者であるとまで立言しうるか否かである。当裁判所は、これを消極に解する。けだし、自賠法三条は、具体的な自動車の運行について、現実にその運行を支配し、従つてまた運行利益の帰属する主体にその運行によつて生じた人身事故に関する賠償の責任を負わせるものであるから、直接の運行支配者のほかに間接の運行支配の成立を観念することができる場合、運行による利益が帰属している事実を合せ考えて運行支配に直接具体性の不足しているのを補いつつ、その間接の運行支配者を同条の運行供用者と認める余地は残されているのであるが、間接的にも運行の具体的支配を認めることができない場合、単に企業間の経済的支配・依存関係の存在だけから、当該車両の運行による利益が間接に経済的利潤として帰属するに過ぎない別個の法人格にまで賠償の責任を負わせることは、自賠法三条の前示のような法意に鑑み、同条の実定的解釈を逸脱するものと言わざるを得ない。自動車メーカーにも何らかの方法と程度で、その製造した車両の惹起した人身事故賠償に対する社会的責任を問うべきことは、当裁判所も立法論として十分その必要性を理解するものであるが、それを直ちに同条の解釈論とすることはできない。また、原告は、被告に運行供用者責任が肯定されず訴外東都にのみこれが肯定される場合、被告が訴外東都に対して有する莫大な債権が原告の損害賠償債権実現の妨害となることを指摘する。これはありうべき事態であり、被害者保護の観点からはまことに遺憾と言わなくてはならないけれども、人身事故による損害賠償債権に対する保護としては、自賠法による以外、格別他の債権と違つた優先的地位が与えられているわけではないのであるから、原告指摘の現象も立法にまつ以外やむを得ないものがあると言うべく、このような事態があるからといつて、自賠法の解釈を曲げることは、本末を誤ることとなろう。
(五) 右のような次第で、被告の自賠法三条の責任は、これを肯定することができない。(倉田卓次 小長光馨一 佐々木一彦)